2023年3月22日、広島市南区の進徳女子高等学校を舞台に、第9回ひろしまシェフ・コンクールが開催された。もっとも優秀な成績を収めた料理人には、国内外で料理修業をする際、県から支援を受けられるという特典がある。
今回も書類・面積審査を突破した若き挑戦者たちが、己の夢を実現させるため、腕を確かめるために集まった。
≪出場者≫
1 広島ガーデンパレス 澤江 優
2 リーガロイヤルホテル広島 髙木 駆
3 株式会社アンデルセン 二子石 駿
4 リーガロイヤルホテル広島 法専 諒也
5 アイ・ケイ・ケイ株式会社 澤田 晴生
6 イタリア料理 La sette 西原 一樹
彼らを審査するのは、いずれも日本の食文化の振興に貢献してきた名だたる第一人者たち。
≪審査員≫
1 日本ホテル 総括名誉総料理長 中村 勝宏
2 レストラン タテルヨシノ 吉野 建
3 料理評論家 山本 益博
4 広島県飲食業生活衛生同業組合もみじ支部支部長 山口 数広
5 ル・トリスケル 勇崎 元浩
6 ラ・セッテ 北村 英紀
7 オフィスオオサワ 大沢 晴美
<面接審査員>
1 ル・ミロワール 中山 孝雄
2 リーガロイヤルホテル広島 豊田 光浩
出場選手の緊張感が会場を包む中、開会式が始まった。広島県の湯﨑英彦知事からは、選手を激励するビデオメッセージが届けられた。
「5月にはG7広島サミットが開催され、世界中から広島が注目を集める。その中でも、料理人の皆さんの手によって磨き上げられていく「ひろしまの食」は、大きな関心を集めることになるでしょう。本日出場の皆さんにも、広島の料理界をリードするような料理人へと成長し、広島の食文化の発展に貢献してくれることを期待している」
今年の課題食材は、「ひろしまの食」を象徴する『レモン』と『真鯛』。そして、前菜とメインの2品を170分間で仕上げることが選手には求められる。数分の遅れも減点に繋がるシビアな審査。審査員からは「普段とは違う調理場で、どれだけ練習してきたものを出し切れるか、自分の料理の完成度を高められるか、それを審査員にアピールできるか。それらを皿の上で見せてくれることを楽しみにしている」という声や、「緊張もあるだろうが、それを乗り越える力や若者らしい積極性を感じさせてもらいたい」といった期待感が寄せられた。




選手の手捌きをチェックする審査員の厳しい目。調理する音だけが静かに響く緊迫感。
そして、それぞれの選手の日々の研鑽が表れた色とりどりの料理が、ついに完成した。
審査は実技から、試食へと移行する。審査員はまず、1皿ごとに様々な角度から盛り付けをチェックする。色合いやソースの量、飾り付けのバランスなど、細かいところにも厳しい目が光る。そして、ひとくち料理を口にする。ときに頷き、ときに首を捻る。一流の舌が、その真価を問う。



試食審査を終えると、次に待つのはプレゼン。料理に込めた思いやアイデアを、思い思いにアピールする。
「故郷の味を取り入れた」。「自分の調理技術のバックボーンとなった料理をレシピに取り入れた」。料理界の巨匠たちを前に、緊張しない者はいない。言葉に詰まりながらも懸命に伝えようとする姿に、この日を迎えるまでの努力や気合が滲んでいた。
審査を終えて、「どなたも若さ溢れる良いプレゼンだった。審査員も驚くようなことを料理に仕込んでいたシェフもいた。色々な部分で〝チャレンジ精神”というものを見せてもらった」と話す温かな表情が、選手の健闘を労っていた。
審査を行った4名の講評は次のとおり。
- 中村勝宏氏

「食材にあった包丁の選び方、フォン(出汁)の取り方など、もっと基本を重んじることが大事。さらに、料理人はSDGsを意識して食材を無駄にしないで使い切り、生産者が一生懸命に作ってくれたものをどう料理に表現するかという使命を持っている。さらなる工夫をしてほしい」
- 吉野建氏

「料理は自己満足ではなく、お客様に食べてもらうときの気持ちだと考えている。そういったホスピタリティが、今回の勝敗を分けた気がする。料理人は、先輩シェフや師匠から、料理に限らず身だしなみや掃除に至るまで、何でも吸収して腕を磨く職業。前進していく気持ちがあれば、世界に羽ばたくこともできる。ぜひ、中国地方の食文化の発展に努めてほしい」
- 山本益博氏

「料理をいただく際は、料理人がこの料理で訴えたいことは何か、どういった順番で食べればその思いを一番汲み取ることができるのか、と考えながらいただく。今回は、自分にとっての真鯛やレモンを突き詰めて考えた人の料理には、それが表れていたように思う。おいしい料理を知らない人には、おいしい料理は作れない。皆さんには、ジャンルの異なる料理やおいしい料理と出会って、食材に対する語彙を深めていってほしい」
- 大沢晴美氏

「料理はその土地の風土に合わせて醸成されている。フランスに修業に行った方が最初に気付くのは、そういった地域の持つ特殊性や豊かさ。広島も食文化の深いところで、国外や県外に出たとき、その豊かさを発見できると思う。フランスに修業に行かれる方は、そういった部分でも自分の国を見つめ直してみてほしい」
そしてついに、結果発表のとき。固唾を呑んで見守る中、上位3名の名前が読み上げられた。
優勝 西原一樹
2位 高木駆
3位 法専諒也

受賞者のコメントは次のとおり。
- 西原一樹氏
「参加者の中でも、私は年長の方だと思うと焦りもあったが、優勝できて素直に嬉しい。今まで料理人を辞めずに続けてきて良かったという気持ちが溢れている。この優勝に甘んじることなく、精進していきたい」
- 高木駆氏
「先輩シェフがこのコンクールで素敵な料理を作っているのを見て、私も参加したいと思った。2位という結果は、嬉しくもあり、悔しくもある。次は優勝できるよう頑張りたい」
- 法専諒也氏
「飲食業界に入ってまだ4年で、入賞できるとは思っていなかったので正直驚いた。この結果に満足せず、日々の努力を重ね、自分で納得できるような、そしてお客様に納得していただけるような料理を探していきたい」
驚き、喜び、悔しさ。それぞれの想いを抱えながら、表彰式の後には審査員に積極的に声をかけ、アドバイスを求めにいく姿も。審査員から率直に伝えられる評価は厳しい言葉もある一方、改善すべき点を事細かに指導する言葉もあり、彼らの未来を思う優しさに満ちていた。
最後に、惜しくも入賞を逃した選手のコメントを1つ、紹介したい。
「今日、この場に立てたこと、同じ世代の料理人と肩を並べて争えたこと、そして審査員の皆さんに自分の料理を食べてもらえたこと、そのすべてが今後の料理人人生において大きな財産になると思う。入賞できなかったことは、もちろん悔しい。でも、入賞した3人のシェフの料理と自分の料理のどこが違ったのか、どうすれば良かったのかと考える時間は、真摯に料理と向き合えた時間だったと感じている。本当に素晴らしいコンクールだった。参加できて、本当に良かった」
勝負の世界に、勝敗や優劣はつきもの。しかし、この言葉に、それを超越した価値がこのコンクールにはあることを、改めて気付かせてくれた。準備から本番に至るまで、食材や自分と向き合った時間は、決して無駄ではない。この経験を糧に、この若き料理人たちが、次世代の広島の食の可能性を広げてくれることを期待したい。
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