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広島の食の価値を向上 「第7回ひろしまシェフ・コンクール」

広島食道

[投稿日]2022年03月22日

若き才能が世界へ羽ばたくきっかけに

7月11日(日)に、広島の食文化の発展とブランドイメージ向上を図るために開催された「第6回ひろしま和食料理人コンクール」。翌週の7月18日(日)は、同会場である山陽女子短期大学にて「第7回ひろしまシェフ・コンクール」を行いました。

前者のコンクールと目的を同じくするこのコンクールでは、成績優秀者1名に国内外の名店で修業するための「広島県調理師等研修資金」の貸付権利が与えられます。また、研修にかかった費用は、将来的に広島県内の料理店で一定期間就業するか開業することで返済義務がなくなります。過去にはこの制度を利用し、世界の星付きレストランで腕を磨き、のちに広島で店を持ったというシェフも。

 

広島県では、才能を持つ若手料理人が存分に羽ばたけるよう、同コンクールを続けています。

 

今回シェフ・コンクールに出場したのは書類選考を通過した8名のシェフたち。

 

シェフ:後列左から浄聖 友太さん(クレイトンベイホテル),澤江 優さん(広島ガーデンパレス),小椋 一機さん(瀬戸内海クルーズ株式会社 広島ベイクルーズ銀河),檜垣 貴宏さん(オリエンタルホテル広島),杉田 周人さん(ANAクラウンプラザホテル大阪 メゾンタテルヨシノ),濱田 将太さん(ANAクラウンプラザホテル広島),馬庭 祐季さん(ララシャンスHIROSHIMA迎賓館),米林 翼さん(瀬戸内海クルーズ株式会社 広島ベイクルーズ銀河)

審査員は、世界で活躍する名シェフや広島の有名店のオーナーシェフなどが顔を並べました。

審査員:前列左から北村 英紀さん(「ラ・セッテ」オーナーシェフ),勇崎 元浩さん(「ル・トリスケル」オーナーシェフ),中村 勝宏さん(日本ホテル総括名誉総料理長),吉野 健さん(「レストラン タテルヨシノ」オーナーシェフ),山本 益博さん(料理評論家),山口 数広さん(広島県飲食業生活衛生同業組合もみじ支部支部長)

審査員たちからは、「コンクールに出場する選手たちには、仕事に対する強い思いがあるのだと思う。気持ちのこもった料理に出合えるのではと楽しみにしています」「このようなコンクールに参加できるのは恵まれたこと。与えられたチャンスの中で、自分の中での新たな発見や目標をぜひ見つけてほしいです」という期待の声が寄せられました。

 

調理の姿勢から見えてくる料理人たちの背景

「本コンクールは広島の食文化の発展、ブランドイメージ向上を目的として開催しています。ひいては観光振興や地域活性にもつながるため、皆さんと一緒になって取り組んでいきたいです」という、広島県商工労働局長の川口一成より開会の挨拶とともに午前10時40分から調理がスタートしました。

 

前回と同様、一人につき一つの調理台が与えられ、事前に申請した食材を使い調理を行います。サポートには山陽女子短期大学・食物栄養学科講師の津村なみえ先生と、同学科の生徒や卒業生数名が入り、器具の置き場所などを必要に応じて教えます。

 

持ち時間は一人170分。前菜とメインを同時に作り始め、先に前菜、それから30分後にメイン料理を審査会場に提出します。課題は、前菜かメインのどちらか1品に広島レモンを使用すること、メイン食材は豚肉ロースを使うことがルールとして設けられています。

     

調理の様子を見ていた審査員からは、「ホテルや結婚式場など料理人が複数いる職場で働いているからか、皆さん動きがスムーズ。決められた時間の中で、自分の料理をどう仕上げるか計算した動きをしているように感じられます。」「日進月歩の洋食の世界で、人の手をはるかにしのぐ調理器具を用いている職場も多いはず。今回はそれらの器具がない状態でのチャレンジ。ただし、条件は皆一緒なので、制約の中でどれだけのパフォーマンスが出せるかが、勝負の決め手になると思います」とのコメントがありました。

 

個性を発揮した、彩り豊かな料理が並ぶ

午後1時30分、審査会場には個性豊かな料理がずらりと並びました。

No.1小椋 一機さん(瀬戸内海クルーズ株式会社 広島ベイクルーズ銀河)

課題1前菜:真鯛のミルフィーユ 瀬戸内コンディマンと共に

課題2メイン:豚ロースのソテー リンゴとトマトのソース

 

No.2澤江 優さん(広島ガーデンパレス)

課題1前菜:ポワローで巻いた牡蠣のコンフィ そのジュのヴィネグレット

課題2メイン:豚ロース肉のグリエ ポルト酒と瀬戸内レモンのエマルジョンソース

 

No.3浄聖 友太さん(クレイトンベイホテル)

課題1前菜:真鯛と穴子のテリーヌ 透明なジュレとお野菜のハーモニー

課題2メイン:豚と茸のバロンティーヌ 広島県産レモンと林檎と共に 庭園仕立

 

No.4杉田 周人さん(ANAクラウンプラザホテル大阪 メゾンタテルヨシノ)

課題1前菜:牡蠣のレモンクリームでショーフロワ仕立てに。ポロネギのプレスとハチミツレモンのヴィネグレット

課題2メイン:豚肉のキャラメリゼローズマリー風味 緑粒胡椒のソース 夏の装い

 

No.5濱田 将太さん(ANAクラウンプラザホテル広島)

課題1前菜:タコのコンフィ サラダ仕立て タコのジュで

課題2メイン:豚肉のコートレット ミルフィーユ仕立て 赤ワインソース

 

No.6檜垣 貴宏さん(オリエンタルホテル広島)

課題1前菜:瀬戸内産鯛と音戸ちりめんのタルタル3種の野菜チップ添え レモンクリームソース

課題2メイン:豚ロースのコンフィオロロフ風 広島野菜のルーレ添え マデラソース

 

No.7馬庭 祐季さん(ララシャンスHIROSHIMA迎賓館)

課題1前菜:黒鯛のマリネと小野菜 牡蠣のドレッシング

課題2メイン:豚ロース肉のロティ レモンマスタードのピュレを添えて

 

No.8米林 翼さん(瀬戸内海クルーズ株式会社 広島ベイクルーズ銀河)

課題1前菜:鯛のフュメを使った牡蠣とラタトゥィユのゼリー寄せ

課題2メイン:豚ロースのソテー 白ワインのソース

 

 

盛りつけをチェックし、実食した審査員たちからは、「レモンの使い方が上手。食欲をそそる酸味がうまく生かされている」「盛りつけセンスは少し古い人が多いかも。若い料理人たちだから仕方がないけれど、もっとたくさんの店に足を運んでセンスを磨いてほしい」等と、口々に意見が寄せられました。

 

プレゼン審査で料理に対する情熱を語る

  

調理審査が終わった後は、2分の持ち時間で料理のポイントや思いを語るプレゼン審査へ。貫禄ある審査員たちを前にして、時に言葉に詰まったり、早口になったりしながらも、皆一生懸命に話してくれました。

「このコンクールで賞を獲って海外で研鑽を積みたい」という参加のきっかけや、「今回初めて出場して、自分に足りないものがよくわかりました」といった感想、そして「サステナビリティをテーマに、食材の個性を引き出し、無駄なく使うことを心がけました」という料理のコンセプトなど、さまざまなプレゼンテーションが繰り広げられました。

 

プレゼン審査を終えた審査員からは、「料理に光るものがあった選手は、調理や片付けの手際の良さ、礼儀や挨拶、仕事に対する情熱まで一貫して秀でたものがありますね」と一言。この言葉には、どの審査員もが納得した様子でうなずいていました。

 

表彰式にて結果発表。審査員たちからのエール

審査員と選手が控室で休憩をとる間、スタッフによる集計作業が行われました。そしていよいよ午後3時30分に表彰式が開式。審査員の3名から講評をいただきました。

 

中村 勝宏さん(日本ホテル総括名誉総料理長)

「今回皆さんの調理と料理を見て、自分でコンクールに出ようという人と、すすめられて何となく出た人と、はっきり分かれたなと感じました。出来不出来の差がありすぎました。料理に対する姿勢も、勉強も、結局は自分に跳ね返ってきます。皆さんはお客様からお金をいただいて料理を提供する立場です。そのことをわきまえて頑張ってほしい。そして、新型コロナウイルス蔓延の状況で、今後の料理界は大きく変わってくると思います。SDGsを念頭に置いたフードロスの問題はより徹底されてくるはずです。調理時に、まだ使える食材を簡単に破棄している姿も見られました。プロとしていかにきれいな仕事をするか。感謝の気持ちをもって、清潔で、安全な仕事ができるかを、もう少し心得てほしいです」

 

吉野 健さん(「レストラン タテルヨシノ」オーナーシェフ)

「コロナ禍という状況の中で、練習する時間を設けるのも大変だったことでしょう。しかし、だからこそ日頃の練習時に“良いものを作るんだ”という気概で臨むのが大切なのではと思います。店の営業時間が終わった後、上司や先輩にアドバイスをもらいながら、どれだけ練習を重ねられたか。それが足りない人も多かったのではないかと、少し寂しく感じます。一流のプロを目指すのであれば、広島はもちろん、全国、世界各地で活躍するような気持ちで努力をしてほしいです」

 

山本 益博さん(料理評論家)

「私は食べるほうの専門なので、そちらの面からお話をさせていただきます。私は年に数回ヨーロッパへわたり、名店と呼ばれる店で料理を食べています。盛りつけもさることながら、料理はいかに“美味しい”と感じさせるかが大事です。美味しいと思わせる料理を作るには、自分も美味しいものをたくさん食べないといけない。今回入賞した皆さんは、ぜひその賞金を使って、美味しいものをたくさん食べてください。そして、皆さんの今日の姿を見て、かの有名な料理人ジョエル・ロブションの“料理半分、掃除半分”という言葉を思い出しました。調理の過程も大切にしながら、良い料理を作ってください」

 

 

受賞を果たした3名。それぞれの思い

講評が行われたあと、今回入賞した3名を発表。それぞれの感想もいただきました。

広島県知事賞 

杉田 周人さん(ANAクラウンプラザホテル大阪 メゾンタテルヨシノ)

「このような賞をいただき、大変嬉しく思います。日々、レストランという現場の最前線でやってきたことが今日につながったのかなと感じています。普段大切にしているのは、笑顔と、元気と、健康になってもらう料理を作ること。吉野シェフのもとで学んできたことを、これからも生かしていきたいです。今回の特典である研修制度を使って、海外修行にも出るつもりです。そして、このコンクールで広島レモンや祇園パセリといった広島ならではの地素材に出合えたので、いつか広島に根をおろして、まだ知らない地元の産品を使って料理を作ってみたいです」

 

 

料理人コンクール実行委員会会長賞 

檜垣 貴宏さん(オリエンタルホテル広島)

「優勝を狙っていたので正直悔しい。でも、年齢的に最後の挑戦だったので賞を獲れて嬉しい思いもあります。また、自身の練習不足、勉強不足の点も多々感じました。コロナ禍にあって職場が休業してしまい、せっかくなら時間を有意義に使おうと、今回のコンクールに挑戦しました。先輩たちに味を見てもらうこともあまりできず、ほぼ自分の技術のみで挑むことになりましたが、そのぶん課題も見えた気がします。広島には素晴らしい食材がたくさんあり、その持ち味を生かすためには、収穫してすぐに提供できる環境が望ましいのかなと思います。将来は地産地消を軸にした店を持ちたいです」

 

 

広島県日本酒ブランド化促進協議会会長賞 

濱田 将太さん(ANAクラウンプラザホテル広島)

「入賞できると思っていなかったので、すごく嬉しかったです。今回コンクールに出場したのは、自身のスキルを向上させたかったから。皆さんの料理や技術をたくさん見ることができ、とても勉強になりました。課題のポイントは、地元三原の特産であるタコを使ったこと。旨味を逃がさないよう柔らかく仕上げ、クルトンのようなガレットで食感に変化をつけました。とにかく緊張したので完全に力が出し切れず、自分では70~80点というところです。いつか三原や尾道で地域に根ざした料理を作ってみたい。国内でも料理修業はできますが、世界の技術を見る機会があれば自分の力にし、地域に還元できるシェフを目指したいです」

 

関わる人にとっても学びのあったコンクールの開催

その後の懇親会では、互いに料理の感想を伝え合ったり、写真を撮ったりする様子が見られました。

また、会場となった山陽女子短期大学でサポートに入った津村なみえ先生(食物栄養学科講師)は、「プロの技を間近で見ることができ、生徒たちにとってとても勉強になりました。本学を卒業後は、調理師や栄養士など料理の世界で活躍することを目指す生徒が多いのですが、今回、調理の姿勢や手際、衛生管理など、学べるところが多々ありました」と、話してくれました。

先生の声掛けでお手伝いに入った生徒の一人、吉田和佳奈さんは、「片付けがきれいな人は、手も早いし料理もきれいだなぁと驚きました。将来は管理栄養士の資格を取って食育に携わりたいと考えているので、ひとつの食材をこんなにアレンジできるのだということも学べました」と、嬉しそうな様子でした。

 

勝敗だけを決めるのではない、今回のコンクール。出場を通して選手たちそれぞれに学びがあったのはもちろんのこと、選手同士のつながりや、意識の変化など、予期していなかったところにも得るものがあったのではないでしょうか。食の恵み豊かなこの広島で、才能溢れる若い担い手たちが、これからさらなる可能性を切りひらいてくれることを願ってやみません。

 

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