県内の和食文化を担う若手料理人が集結
中国山地の清涼な水が育む山の幸、温暖な瀬戸内海がもたらす海の幸、山海ともに恵み豊かな広島県は食材の宝庫。これら県内の食を内外に発信し、その食文化を担う優れた料理人を育成するため、「ひろしま和食料理人コンクール」「ひろしまシェフ・コンクール」を毎年行っています。
第6回となる「ひろしま和食料理人コンクール」は、廿日市市にある山陽女子短期大学を会場に7月11日(日)に開催され,事前の書類選考を経た8名の選手が参加しました。
料理人:後列左から村上 夏輝さん(株式会社半べえ),中西 滉輝さん(株式会社半べえ),清水 翔一さん(創作割烹 桂),渡辺 歩さん(広島ガーデンパレス),野口 晟弥さん(株式会社ノバレーゼ 三瀧荘),藤井 宏規さん(株式会社魚池),大宮 剛一さん(株式会社ニシ・コーポレーション 村上水軍本店),白井 秀幸さん(割烹白鷹株式会社)
審査員は、広島の和食業界を牽引してきた料理人や世界で活躍する料理評論家などの方々。
審査員:前列左から田中 孝さん(広島県日本調理技能士会名誉顧問),佐々木 政之さん(広島県日本調理技能士会名誉会長),山本 益博さん(料理評論家),北岡 三千男さん(「日本料理 喜多丘」オーナーシェフ),川村 満さん(広島県日本調理技能士会会長、「半べえ」総料理長)
審査員の皆さんからは、コンクール開始にあたり「日本料理は伝統という土台あってこそ。そのルールを守りながらいかに新しいものを生み出せるか、楽しみにしています」「各自が高い意識でこのコンクールに臨んでいるのがよくわかります。大きな夢をもって存分に挑戦してほしい」というような声が寄せられました。
コンクール延期に伴うハードルを乗り越えて
午前9時30分、広島県商工労働局長・川口一成の挨拶により、コンクールがスタート。「コロナ禍という状況、落ち込む飲食業界にあって、皆さんの活躍により再び業界が盛り上がることを期待しています」という言葉を受け、各々が真剣な表情で調理に取りかかりました。
ひろしま和食料理人コンクールでは、例年課題食材を設定。今回は、課題1の先付三種盛りに「わけぎと大野あさりのぬた和え」「小松菜もしくはチンゲンサイの和え物」「廣島赤鶏を使用した料理」を、課題2の椀物で「殻付き牡蠣」を使用することを定め、課題3の油物では食材の指定なしに自由に調理を行ってもらいました。
課題1は約80分、課題2と課題3は各約60分の調理時間を設けており、ひとつの課題が終わるごとに審査会場へ提出となります。調理中は審査員が選手の動きや技術をチェックし、課題が提出されたところで試食審査にうつります。
調理している選手を見て回っていた審査員は、「慣れない環境で、皆本当によく頑張っている。調理技術だけでなく、身なりや片付けの手順なども見ているので気をつけながらすすめてもらえれば」と話してくれました。
各自の料理を披露。実食を経てプレゼン審査へ
課題3までが終了したところで、審査会場では料理に対する総合審議が始まります。いずれ劣らぬ力作がそろいました。
No.1 大宮剛一さん(株式会社ニシ・コーポレーション 村上水軍本店)
課題1:穴子とチンゲンサイの山椒和え、大野あさりのぬた、廣島赤鶏と酒粕レモンソース
課題2:牡蠣の玉子椀
課題3:ワタリガニの大葉包み揚げ鯛の天ぷら、アスパラ、燻製塩
No.2 清水翔一さん(創作割烹 桂)
課題1:あさりのぬた和え、小松菜のごま酢和え、赤鶏のやわらか煮
課題2:牡蠣の色どりガレット包み
課題3:ふわふわ鯛のすり身のあられ揚げマッシュポテト添え
No.3 白井秀幸さん(割烹白鷹株式会社)
課題1:わけぎとあさりのレモンぬた和え、車エビと小松菜の白和え、廣島赤鶏のくわ焼き
課題2:牡蠣真薯清汁仕立
課題3:鯛の山芋磯辺揚げと変わり揚げ
No.4 中西滉輝さん(株式会社半べえ)
課題1:わけぎと大野あさりの白板昆布巻、小松菜の白和え、廣島赤鶏の千福酒蒸し焼き
課題2:潮仕立て 牡蠣葛打ち 椎茸海老射込み 紅白梅菜
課題3:虎魚の唐揚げ
No.5野口晟弥さん(株式会社ノバレーゼ 三瀧荘)
課題1:大野あさりとわけぎのぬた和え、小松菜胡桃和え、赤鶏酒蒸し
課題2:牡蠣粕汁
課題3:春若芋饅頭蟹あんかけ
No.6藤井宏規さん(株式会社魚池)
課題1:広島県庁レモンと大竹和紙にのせて わけぎと大野あさりのぬた和え さいの目千福とつやダシ和え 廣島赤鶏の手まり串、梅人参
課題2:牡蠣と千福の潮仕立 牡蠣の奉書巻き 梁人参 しめじ 松葉レモン
課題3:まるごとレモンをいこんだ穴子の八幡揚げ
No.7村上夏輝さん(株式会社半べえ)
課題1:大野あさりの酒炒り わけぎ酢味噌がけ、小松菜と車エビの酒盗和え、廣島赤鶏レモンこうじ焼
課題2:牡蠣のみぞれ蒸し うすくず仕立て
課題3:鯛の三色揚げ
No.8渡辺歩さん(広島ガーデンパレス)
課題1:小松菜のみぞれ和え いくら、大野あさりとわけぎのぬた和え広島レモンゼリー掛、廣島赤鶏の味噌風味焼き
課題2:広島県産牡蠣を使った椀物 玉子豆腐 三つ葉 人参 大根 柚子
課題3:ワタリガニの磯辺揚げ
審査員からは、「全体的に出汁が上手に引けていないのが残念」「ぬたは味の個性が出やすい。味噌と酢と辛子のバランスが良いものと味がぼやけてしまったもの、はっきりと違いが出る」「盛りつけは普段の店の様子が反映されているかも」と、プロの視点ならではの意見が飛び交いました。
一方調理室では、料理の終わった選手たちが幾分ほっとした面持ちで後片付けに取り組む姿が。選手たちからは、「とにかく緊張して時間配分がうまくいかなかった。皆の動きが落ち着いて見えて焦ってしまった」と悔やむ声や、「次のプレゼン審査で頑張りたい」と意気込む声があがりました。
午後2時からは、選手たちが各2分の持ち時間で料理に対する思いやこだわりのポイントを話すプレゼン審査がスタート。自身が手がけた料理を前にして、しっかりとアピールを行います。
「前回は書類審査で落選したので今回初出場です。できる限り練習してきました」と熱意を語る人もいれば、「レモンを丸ごとミキサーにかけたり、日本酒をジュレにして、広島らしい食材をどう生かすか心を配りました」と、調理法について説明する人などさまざまです。名だたる審査員たちを前に、緊張しながらも一生懸命話す様子が好印象でした。
審査員による講評と今後のアドバイス
調理では段取りや時間を、課題では独創性や盛りつけの美しさを、そしてプレゼンテーション力などをすべて加味した審査表の点数集計が終わり、いよいよ表彰式へ。
審査員による講評が行われました。
田中 孝さん(広島県日本調理技能士会名誉顧問)
「修行している者とそうでない者の差がはっきりとあらわれた。予想通りの結果だったと思う。出汁の引き方、包丁やふきんの使い方、味見の仕方…およそ基本といえるべきところがなっていない人も多かった。心当たりのある人は、今一度自分のやり方を振り返り、直せるところがあればしっかり直して研鑽を積んでほしい」
山本 益博さん(料理評論家)
「私は食べる側から一言。和食には“わんさしが華”という言葉があります。ただの切り身が包丁捌きひとつで美しく生まれ変わる刺身、そして和食の真髄があらわれる椀物は日本料理の要です。いただくほうもまず深呼吸してから味わうぐらい、特別な思いのある料理です。田中先生も言われたお出汁の引き方、これはきちんと勉強してほしい。そして、コンクールをより有意義なものにするためには、出場者の皆さんにプロによるお出汁の引き方講座を受けていただくなど、演習を伴った内容にするとよりいっそう技術が高まるのではと思います」
それぞれの結果を受け止め、未来を思う
今もてる精一杯の技術で挑んだ今回のコンクール、表彰台に輝いたのは以下の3名です。
それぞれの感想を聞かせてくれました。
広島県知事賞
野口 晟弥さん(株式会社ノバレーゼ 三瀧荘)
「ここに参加するまで“絶対に自分が勝つ”と思えるぐらい練習してきました。けれど、いざ調理に入ってほかの人の料理を見ると素晴らしいものばかり。これはダメだったな、でも皆さんのやり方を教えてもらえて勉強になったなと思っていたところだったので、まさか賞がもらえるなんてびっくりです。練習に付き合ってくださった店の先輩たちには感謝の気持ちでいっぱいです。また、日頃から“食べる相手の気持ちになって料理を作りなさい”と教えてくださっている料理長の言葉を守り、盛りつけには『蘇民将来』という言葉を掲げました。これは災厄を払い福を招く言葉です。こういったところも評価されたのなら、とても嬉しく思います」
料理人コンクール実行委員会会長賞
渡辺 歩さん(広島ガーデンパレス)
「実は3回目の出場です。1回目、2回目と悔しい思いをしましたが、今回賞をいただくことができました。前回は人と違う料理で挑みたいと考えて洋食のエッセンスを取り入れたのですが、それがいけなかったのかもしれないと思い直し、今回は王道の和食で挑戦しました。過去の経験が生かされたように感じています。将来は、自分の店を持つのが夢。今回のコンクール出場で、あらためて広島の食材や調味料を調べるきっかけになり、自分の夢がより具体的にイメージできるようになりました」
広島県日本酒ブランド化促進協議会会長賞
藤井 宏規さん(株式会社魚池)
「ひろしま和食料理人コンクールの第1回の優勝者が弊社の社長、そして第5回の優勝者が同じく弊社の先輩です。先輩たちの背中を追いかけて賞をいただくことができ、ほっとしています。店で調理するのとは全然雰囲気が違って、正直とてもバタバタしました。今回いただいた賞金は技術研鑽のために使いたいと思います。そして店から許可が出るならば、今回の料理をグレードアップさせてお客様にも食べてほしい。今の店には高校卒業時から面倒を見てもらっているので、すごく感謝しています。これからもトライ&エラーを繰り返すと思いますが、後から入ってくる後輩たちに“料理人ってかっこいい!”と思ってもらえるような姿を見せていきたいです」
コンクールを通じて生まれる絆
表彰式が終わった後は、和気あいあいとした雰囲気で懇親会を開催。審査員に個別にアドバイスをもらいに行く様子や、ほかの選手が作った料理を今後の参考にと写真に収めるシーンが見受けられました。
「これ、どうやって作ったの。レシピを教えて」「今度お店に食べに行きたい。連絡先を交換しよう」と、選手同士で交わされる会話は、ほほえましくもあり、また将来を期待させるにじゅうぶんな姿でした。
「昔は料理人同士、情報交換もよくしたし、互いの店を食べ歩いたりもしたんですよ。料理は料理人が作るものですが、お客様が作ってくれるものでもあるし、地域が作ってくれるものでもある。割烹料理店が軒を連ねていた時代の広島は、優秀な店がしのぎを削ることで料理が研ぎ澄まされていきました。コロナの影響で繁華街も落ち込んでしまっている状況ではありますが、こうして若い料理人がつながって、切磋琢磨している姿は頼もしいですね」と、審査員は話します。
その道を志す人が減っているともいわれる料理の世界ですが、食材を巧みに操り華麗な品に仕上げていく様子はまさに職人技。コンクールという経験を経てさらにステップアップした若き料理人たちが、今後の広島の食文化を力強く背負ってくれることを願っています。
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