
広島県では、食文化の発展と「おいしい!広島」のブランドイメージ向上のため、若手料理人を対象とした広島県主催の料理人コンクールを2014年から実施。
2025年も去る2月20日に広島酔心調理製菓専門学校にて「第11回ひろしまシェフ・コンクール」が行われた。
応募資格はいずれも日本国籍を有する40歳以下で、コンクール後も調理技術の向上に務める者。広島県在住者のみならず、どの県からも応募が可能だ。また事前エントリーすると課題食材(比婆牛のバラ肉)が練習用に支給される特典もあった。
賞品においては賞金の他、成績優秀者は国内外の料理店等で修業することができ、それにかかる費用を県の貸付制度「広島県調理師等研修資金」を無利子で利用できる特典が与えられ、一定条件によっては返済が不要。最優秀者はフランスなどの海外修業で最大720万円が支援される。
こうした料理人育成のための手厚いサポート付きの取り組みが、全国でも類を見ないコンクールだ。
【2025年の出場者(順不同、敬称略)】※所属は応募当時
福山ニューキャッスルホテル 向井優太
ヒルトン広島 檜垣貴宏
ANAクラウンプラザホテル広島 濱田将太
瀬戸田リゾート 百瀬駿也
Oysterbar MABUI 桒田真司
【審査員(順不同、敬称略)】
●実技審査員
日本ホテル総括名誉総料理長 中村勝宏
レストランタテルヨシノ 吉野建
厨房審査においては「まず、手を洗うかどうか、といった基本部分をチェックします。その他、布巾などの使い方やゴミの捨て方、シンクの中、道具の扱い方、衛生面といった綺麗な仕事かどうかを見ています」と話すのは審査員の勇崎氏。
一方、時間的な難易度に対しては「課題の食材に対し、与えられた時間は十分長いと思う。開始時間から30分も経たないうちに、火を入れる作業を行なっている人もいるが、まずは野菜の切り出しや計量を行ったり、野菜を一度水に浸してシャキッとさせたりするべき。それだけでも美味しさが違う。長い時間に対する段取りも必要」と話すのは審査員の北村氏。
下処理においては、「牡蠣は殻の開け方、洗い方、保存方法を見ています。せっかくの牡蠣のジュ(汁)を洗い流して、もったいないことをしている選手も」(北村氏)。
なお、牡蠣は衛生管理が難しい素材。
「ホテルでは、牡蠣専用の部屋があるほどセンシティブな素材」と話すのは審査員の豊田氏。「牡蠣を触った手で野菜や肉を触るのは御法度。今回見ていたら手袋を持参しているのは1人だけだったので、衛生観念が低いと感じました。ホテルでは生を提供せず、ここ15年は44℃〜47℃のサーキュレーターで殺菌するのが一般的。昔は指の感覚だけで火を入れていた素材ですが、安全のためデジタルで数値化して殺菌し、安全性を確保しなければならない」(豊田氏)と話す。
一方、牛肉は広島県庄原市で生産され、日本最古の血統を持つ黒毛和種。オレイン酸含有量が遺伝的に高く、発達した赤身と油脂のバランスの良さからすっきりとした旨味が特徴の比婆牛だ。その中でもレストランではスジが多いことから一般的に扱わないバラ肉が課題。通常、フランス料理でバラ肉といえば煮込み料理に用いることが多いが、煮込むほどの時間はないため、「新しい使い方に期待したい素材」(勇崎氏)、「脂付きで配られるバラ肉の脂の活かし方にも注目したい」(北村氏)、「新しい調理技術が期待されている」(豊田氏)、「非常に希少で高価な素材のため、ロスがでないように使えているか、というポイントもみたい」(山口氏)といった声が審査員から聞かれた素材だ。
完成した料理は以下の通り。
●福山ニューキャッスルホテル 向井優太
「カキのグラチネ トマトと柑橘のジュレ カキの昆布締めと白菜と白葱のピューレ」
「比婆牛のミルフィーユとリゾットファルシー」
●瀬戸田リゾート 百瀬駿也
「ケールと牡蠣」
「しまなみリーフと比婆牛」
●Oysterbar MABUI 桒田真司
調理完成後には試食審査が行われ、その後、審査員全員の前で1人ずつ、料理のコンセプトを説明するプレゼン審査も行われた。
優勝を飾ったのはポーションや味のバランス、比婆牛の火の入れ方などが評価された「ヒルトン広島」で副総料理長を務める檜垣貴宏氏。
「今まで4回出場しており、前回は2位だったので優勝できて嬉しく、やっと次のステージに進める感覚です。牡蠣と比婆牛のバラ肉を、1万円以上のコースでお出しする場合、どのように仕立てたら満足感があって、食べやすくなるか、を重点的に考えました。また、課題食材が難しかった。目でも楽しむことができる料理を意識しました」
2位は「ANAクラウンプラザホテル広島」8年目、バンケットでソーシエを務める濱田将太さん。
「クラシックと言われる料理を、広島県産の素材を活かして作ることを意識しました。1位になれなかったのは悔しいですが、これからかも大好きな古典料理を、時代に寄り添うよう進化させた料理を作りたいです」
3位は調理経験5年目、現在は瀬戸田リゾート「Azumi Setoda」のダイニングで腕を振るう百瀬駿也さん。
「コンクールは苦手でしたが、挑戦しないと何も始まらないと思い、初めて参加しました。料理のクオリティーは手応えを感じたのですが、整理整頓しながら調理する厨房での動きや所作に関して課題が見つかりました。この結果を真摯に受け止めてこれからも頑張りたいです」
表彰式では3名の審査員が講評を行った。
日本ホテル総括名誉総料理長 中村勝宏氏は
「今はどこにいても世界の情報が手に入り、都会と地方との格差が無くなってきましたが、地方特有の豊かな風土や郷土料理があり、すばらしい料理人が各地で活躍しています。昔から地方にいい料理人や店があるフランスに近づき、本当の意味で日本のフランス料理界が成熟してきたと思います。皆さんも広島の風土が育んだすばらしい素材や料理に目を向け、頑張って欲しい。これからも同コンクールを盛り上げ、再び挑戦して欲しいですね」
レストランタテルヨシノ 吉野建氏は
「今回の課題食材、牡蠣は衛生管理が大変でベテランでも手強い素材でした。また比婆牛は味わい深くて素晴らしい素材。その中でバラ肉は扱いが難しかったと思います。皆さんそれぞれ、今日は課題が見つかったと思うけれど、明日からまた忙しい毎日が始まります。料理人である前に人として、素直かつ笑顔で毎日を健康に過ごして欲しい。わからないことは先輩に聞く、先輩は後輩に手を差し伸べることは国内も海外も変わらない。そうして成長していって欲しいですね」
オフィスオオサワ 大澤晴美氏は
「皆さんの先輩料理人のフランス留学のお世話をしてきました。世界にはさまざまなコンクールがありますが、昨今の厨房審査はまな板に包丁を置くのも減点対象であったり、ゴミの捨て方、台の使い方も厳しくなってきています。今日も厨房審査があったかと思いますが、これはお客さんから見えないところで、どんな仕事をするか、という審査。見えないところまで、厳しく評価されるのが世界です。また、皆さんは今日お作りになった料理を、ちゃんと椅子に座って試食しましたか?そうとは思えない料理も中にはありました。コンクールのための料理ではなく、レストランで自分の料理ができたらお金を払えるのか?という視点を常に持つといいと思います」
約11年前に同コンクールを発起した湯﨑英彦知事は「広島県の魅力的な農産物、畜産物は皆さんのようなプロが調理してこそ活き、そうした作品を国内外、県内外から食べに来てもらっていい循環が生まれる。これからもすばらしい料理を作っていただきたい」と話し、これまで50人近くの表彰者を輩出した中で手応えを感じているという。目指すのは「美味しいものといえば広島」という認知を拡大することだ。
これまで50名以上の優秀な料理人を輩出してきた同コンクールは来年も開催予定。
今後も若手の発掘・育成を続け「おいしい!広島」を料理人らと共創する意向だ。
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