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広島県で唯一、酒米「亀の尾」で日本酒を醸す蔵元 地元に根差し、米作りから精米、醸造まで一貫して手がける – 山岡酒造

広島の酒

[投稿日]2021年03月03日 / [最終更新日]2021/03/22

幻の酒米といわれる「亀の尾」。この「亀の尾」を自社栽培し、酒米として用いた日本酒をつくっているのが、三次市甲奴町にある山岡酒造株式会社です。
亀の尾は、明治期に山形県庄内地方で発見され、東北を中心に広く栽培されたお米。ササニシキやコシヒカリなどの食用米の祖先にあたる古い品種です。豊作の年に、食用で余った米を酒米として使っていたといわれます。
ただ、化学肥料に弱く、現代的な農業に向かなかったことから、1970年代にすたれてしまいました。それが、幻の酒米といわれるゆえんです。

しかし、1980年代に酒米として復活し、コミック「夏子の酒」のモデルとして取り上げられたことで、広く知られるようになりました。
とはいえ、現在、亀の尾で日本酒を仕込む蔵は東北地方の蔵元が7割を占めており、西日本で亀の尾を用いる蔵元は多くはありません。広島県では山岡酒造が唯一、亀の尾で日本酒を仕込んでいます。
純米吟醸「こわっぱ」は亀の尾、精米歩合55%、協会1401酵母により醸した日本酒で、常温または熱燗でおいしい、バランスの取れた味わいです。
「瑞冠(ずいかん) こわっぱ  純米吟醸」の商品ページはこちらから
山岡酒造で亀の尾の栽培を始めたのは1989(平成元)年から。背が高く虫がつきやすい品種で、栽培が難しいにもかかわらず、「挑戦したい」という地元農家の協力を得て、亀の尾を使った日本酒造りを続けています。

信条は「生産者の顔が見える酒造り」

自社水田
蔵の裏手には2.6ヘクタールの自社水田があり、畑中裕次 杜氏自らが雄町米を栽培しています。自作米は全体の1割程度ですが、15年ほど前から合鴨農法による無農薬の酒米づくりを続けています。地元の契約農家は12~13軒にのぼり、亀の尾のほかに雄町、山田錦、中生新千本の4種の酒米を生産し、酒造りに用いています。
さらに、山岡酒造は広島県内でも数少ない自社精米の蔵元でもあります。4種の米ごとに精米しており、原形(げんけい)精米にも取り組んでいます。
※原形(げんけい)精米
米の中心部分(心白)を残すように球形に精米する「球状精米」に対し、米の形を残して精米するのが「原形精米」。雑味成分の少ない白米に仕上げることができるので、酒米を無駄なく効率的に精米できます。
このように山岡酒造では酒米を仕込み、日本酒を醸すばかりか、その前段階である米の栽培、精米も自社で一貫して行っています。
山岡酒造が実践するのは「伴農繁醸(はんのうはんじょう)」という言葉に象徴される、農業とともに取り組む酒造り。
フランスでは、ぶどう畑を所有し、ぶどうの栽培、醸造、熟成、瓶詰までを自分たちで行う生産者をシャトーと呼びますが、酒米を自社水田で栽培し、精米、醸造まで手がける山岡酒造はまさに、日本酒版シャトーと言えます。
米も酒も、つくり手である「生産者の顔が見える酒造り」を信条としており、トレーサビリティを意識しています。
さらに、水も山岡酒造の日本酒の大切な要素です。仕込み水、割り水とも蔵から4キロメートル離れた標高500メートルの山から湧き出る「有田清水」を使用。中軟水で適度なミネラル分がある水質は、酵母の健全な発酵を促しています。

全種を燗酒として楽しめる芳醇辛口の日本酒

お米としっかりと向き合い、お米の味わいを最大限に引き出す酒造りを追及する山岡酒造の日本酒は、味わい豊かで穏やかな香り、キレの良いのど越しの辛口。ビギナー向けというより、日本酒好きな人が好む日本酒らしいお酒です。
日本酒の4タイプ分類で分けていうと、熟酒寄りの醇酒という位置づけで、ゆっくり長く飲める食中酒にあたります。そのため、広島県の特産品である牡蠣のほかに、肉類、発酵食品、燻製などの濃い味付けの料理に合います。
山岡酒造の日本酒は全種(純米大吟醸、純米吟醸、純米酒、普通酒)、そして、お燗ができます。温めることで常温にはない香り、味わいを楽しむことができ、夏に敢えて生酛の燗酒という飲み方もおススメです。冷たいものを食べて弱った胃腸の調子を回復するのに一役買います。
2009(平成21)年に開催された第1回「燗酒コンテスト」で瑞冠 純米吟醸山廃仕込 山田錦が大賞を受賞したことが、それを物語っています。

郷酒蔵として地域とともにありたい


山岡酒造がある三次市甲奴町は、標高450メートル。広島県から島根県にかけて中国山地を貫流して日本海へと注ぐ江の川(ごうのかわ)水系にある地です。
海が遠く鮮魚の調達が難しかったことから、ワニと呼ばれるサメの刺身が郷土料理としてあります。サメは腐りにくいことから山間部のごちそうとして、10月の秋祭りの頃に食されてきました。ワニの身は淡白で、サクサクとした食感が特長です。
元来、日本酒は祭りや儀式などの晴れの日のための特別な飲み物でした。それはやがて、仲間と杯を酌み交わし親睦を深めるために、あるいは家で食事とともに楽しむものへと広がっていきました。
山岡酒造の日本酒もまた、江の川水系の生活文化と結びつき、育まれてきたもの。
日本国内だけでなく、台湾、香港、フランスなど、海外に向けたアプローチも始めていますが、「郷酒(さとざけ)蔵」であることを何よりも大切にしています。
1890(明治23)年創業の山岡酒造は、現在、4代目の山岡克巳社長のもと、畑中杜氏と2人の蔵人3人の女性スタッフの総勢7人が代表銘柄「瑞冠」を中心とする日本酒を世に送り出しています。
「地元の酒蔵はそこに住む人とともにあります。地元の米で醸し、酒造りの後にできた酒粕や米ぬかは漬物などの食生活や農業に還元できます。地元の方々の役に立ち、自慢できる存在として価値ある酒蔵でありたいです」と山岡社長。「地酒は、文化」を合言葉に、山岡酒造が目指すのは地域の文化とともに歩む酒づくりです。


山岡酒造株式会社
1890(明治23)年 創業
三次市甲奴町西野489-1
https://zuikan.jp/

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