広島で和食調理の腕を磨く若手料理人たちの登竜門「ひろしま和食料理人コンクール」。広島の食文化の一翼を担う若手料理人の発掘・育成を図るもので、今回で9度目の開催となる。優勝者は、国内外の料理店で修業する際の費用について、広島県から支援を受けられる。
3月12日に広島女学院大学で行われた実技審査には、書類審査と面接審査を通過した6名の選手がエントリー。指定課題の2品と、自由課題1品で腕を競った。
出場者(順不同、敬称略)
・ホテルグランヴィア広島 石垣竜登
・なだ万 大草茂
・かなわ 中島洋介
・半べえ 三木紀葉
・半べえ 村上夏輝
・半月庵 村田憲洋
実技審査員(順不同、敬称略)
・全国日本調理技能士会連合会専務理事 長島博
・料理評論家 山本益博
・日本料理喜多丘 北岡三千男
・半べえ 川村満
・半月庵 加藤隆宏
・かなわ 戸田豊
・稲茶 下原一晃
開会式では湯﨑英彦広島県知事より「G7サミットによって広島の食文化に興味・関心が増えてきた中、観光客の方に『広島はおいしい!』と思ってもらえる料理人が多く排出されることを願っています」とビデオメッセージが届き、実行委員長からは「自分の力を信じて実力を発揮してください」とエールが送られた。
開会式後はすぐに実技審査に入る。実技審査は、身だしなみや調理作法の他、食材廃棄、衛生管理なども審査対象となる。
指定課題の1品目は「小鯛の姿づくり」。迅速で正確な包丁さばきが求められる。大根と人参を丁寧にかつらむきにした後、鯛を姿にさばき松皮造りにする。厳しい審査の目が向けられ、選手たちの表情から緊張感が伝わってきた。
ある審査員は「技術レベルに大きな差はない。基本に忠実であること、厨房の片付けや衛生管理もチェックのポイント」と語る。
2品目は「穴子の八幡巻串打ち」と「穴子の八幡揚げ」。下処理したごぼうに穴子を巻きつけ金串を通すまでの作業と、串打ちした穴子を揚げる作業の2つのステージで審査が行われた。揚げるときに加熱ムラが出ないように丁寧に巻くことと、ごぼうは茹で、穴子は揚げて食感を合わせることなど、普段の調理場とは違った環境にありながらも、高い技術と手際の良さが求められる。
「自分の店で実践しているかどうかで、大きく差が出る料理」と語る審査員。選手の動きを見る目は、自然と鋭くなっていった。
3品目は自由課題の、広島県産品を活用した「酢の物」。各選手とも、この日のために独創性を追求した一品を用意した。
技術だけでなく、料理人としてのセンスも表現できる自由課題。誰もが食材に向き合い、幾度も試作を重ねてきた酢の物を再現しようと腕をふるう。繊細な包丁さばき、丁寧な細工、盛り付けの美しさにもそれぞれのこだわりがある。審査員たちは、時にうなずきながら、時に見守るように、選手を観察している。残り時間が10分を切っても慌てる者はいない。それぞれが、自分の描いたプランに沿って調理に没頭している。
選手渾身の自由課題「酢の物」を、ここに紹介する。
石垣竜登(ホテルグランヴィア広島)
真鯛と貝柱の津軽掛け 広島レモン風
大草茂(なだ万)
鰆炙り広島県産野菜の博多白子ソース唐墨香煎
中島洋介(かなわ)
烏賊と分葱の酢味噌掛け
三木紀葉(半べえ)
蛸ワケギのレモン釜 酢味噌掛け
村上夏輝(半べえ)
安芸灘ワカメを使った牡蠣と分葱の酢味噌がけ
村田憲洋(半月庵)
広島サーモンの龍飛昆布巻
試食審査では、各審査員が盛り付けの美しさやバランスを確認した後、一口ずつ入念に味を確かめて採点。「マイルドにしすぎるあまり、酢が効いていない」「もっと料理人としての工夫がほしい」「最も広島らしい食材の牡蠣を使った酢の物をもっと見たかった」など、厳しい意見も聞かれた。
全ての審査を終え、いよいよ表彰式。会場に運ばれた各選手の料理をスマートフォンで撮影する審査員の姿も見られた。入賞者発表の前に、3名の審査員から講評があった。
長嶋博氏
「自由課題の酢の物では、地場食材を使っての新たな発信を期待していたが、オーソドックスなものが多かったように思う。酢の力をしっかり出せるように、自分なりの黄金値を追求してもらいたい。得点は拮抗していたので、今回入賞を逃した選手は次回もぜひチャレンジを」
山本益博氏
「穴子の八幡揚げは、難易度が高かった。穴子は頭に近い部分に脂が多く、尾の方は肉が多い。皮目と身でも火の通し方が変わってくる難しい食材。まず一本をきっちり揚げられるように、腕を磨いてほしい」
川村満氏
「3品全てが自由だと審査が難しく、今回から2品を指定課題とした。鯛も穴子も広島の食材として外せないもの。小鯛の姿づくりに使った網大根やさく取りは先人たちから受け継いできた伝統の細工だ。料理人としての務めと思って継承してほしい」
講評に続いて、3名の上位入賞者が発表された。順位と入賞者名を、コメントとともに紹介する。
優勝 村田憲洋
「この結果には自分が一番驚いている。網大根や剣を打つことなど、基本的な技術が一番大切。基本ができなければ何もできないと、普段から意識している。これからも初心を忘れず頑張りたい」
2位 大草茂
「網大根もかつらむきも普段の仕事では経験しておらず、今回の出場が決まってから練習を重ねた。課題が決められたコンクールに参加できた意味は大きい。機会があればまたチャレンジしたい」
3位 村上夏輝
「かつらむきや剣打ちをしたことがなく、先輩や料理長に聞きながら練習してきた。もっと技術を磨いて、上を目指したい」
表彰式を終えて、安堵の表情で互いの健闘を讃えあう選手たち。惜しくも入賞を逃した者は、この瞬間から次回への挑戦が始まる。ある選手は「コンクールに参加できたお陰で、技術が身についた。来年も必ず出場する」と誓ってくれた。
優勝者の村田さんは寡黙な人だが、料理への熱意は誰にも負けないものがある。今回のコンクールでは同世代の料理人たちと競い合うことを、自身の糧にしている。「仕事も片付けも、人のやり方を見て勉強になるところは取り入れる」と言う。この日見たライバルたちの手際の良さも刺激になったようだ。「調理場が見栄えするような片付けができるようになりたい」と、謙虚な姿勢で料理に取り組もうとしている。
広島で活躍する若き料理人たちが、互いの顔が見える環境で切磋琢磨する「ひろしま和食料理人コンクール」。さらなる創意工夫と努力を重ね、来年もこの場所で競い合う選手たちの姿が見られるだろう。真摯に料理と向き合う彼らがいれば、広島の食材、広島の味の可能性はもっと広がっていく。
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