オバマ前大統領が来日の際、東京の鮨店『すきやばし 次郎』での会食で供された日本酒。
それが賀茂鶴の「大吟醸 特製ゴールド」です。
桜の花びら型の金箔が入った大吟醸は、賀茂鶴のフラッグシップとなる銘柄でもあります。
広島県内の蔵元の中でも全国的な知名度を誇り、人、設備ともに大型の酒造会社が賀茂鶴です。社内には4つの醸造蔵があり、友安浩司総杜氏を筆頭に41歳から56歳の4人の杜氏がそれぞれの蔵を率いています。
ゴールド賀茂鶴を醸造する八号蔵を沖永 浩一郎杜氏、
最新の冷蔵施設がある四号蔵を井手 滝太杜氏が、
主に純米酒系を醸造する二号蔵を若手の椋田茂杜氏、
本社から離れた御薗宇(みぞのう)地区にある御薗(みその)醸造蔵を友安総杜氏が、それぞれ担当しています。4人の杜氏は、現在の蔵に就く前は賀茂鶴内の他の蔵でも経験を積み、酒造りを追及してきました。
そんな4つの蔵を率いる4人の杜氏の名を冠し、季節ごとに販売される限定酒が「四杜氏四季酒」です。
4人の杜氏がそれぞれの想いを込め、醸す季節のお酒は
1月下旬出荷の大吟醸原酒、沖永杜氏の「あらばしり」
6月上旬に出荷する本醸造生貯蔵酒、友安総杜氏の「ひやしざけ」
9月上旬出荷の純米酒、椋田杜氏の「ひやおろし」
10月下旬から出荷する純米酒、井手杜氏の「しぼりたて」
というラインナップ。
搾りの時期による味わいの違い、季節に合わせた味の造りなど、四季折々の日本酒のおいしさを楽しむことができるシリーズとして好評を博しています。
また、また、4人の杜氏がそれぞれに味を設計しており、4つの蔵を有す蔵元ならではの日本酒の競演といえます。<「四杜氏四季酒」シリーズはこちらから>
甘からず、辛からず、ピンとしていて、うまくちな酒を追及
4人の杜氏が共通して目指す賀茂鶴の酒造りは、ひとつ。
「賀茂鶴の品質」として、蔵に掲げられているのは次の言葉です。
「色艶淡麗にして優美な香りあり、風味濃く、しかも軽快な滑らかさをそなえ、甘辛の中庸を得て、 飲みあきしない、賀茂鶴独特の吟醸酒造りの秘法を駆使した『アマ』『カラ』『ピン』『ウマ』 四拍子揃った名酒。蔵の人が命をかけて造った酒」
「甘からず、辛からず」と形容される「中庸(ちゅうよう)の酒」こそが、代々、賀茂鶴の杜氏によって受け継がれてきた日本酒なのです。
昔ながらの賀茂鶴ファンの支持を得ているのも、この中庸にあります。賀茂鶴ならではの王道をゆく安定感。安心して飲んでいただける品質を守り続けているからこそ、賀茂鶴の日本酒は長く愛されてきました。
しかし、一方で革新の心も忘れてはいません。
最年少の椋田杜氏率いる二号蔵では、挑戦的な酒造りに取り組んでいます。
その一つが、2018年の賀茂鶴法人設立100周年を機に発売した純米の酒「広島錦」です。
賀茂鶴の歴史をさかのぼり、幻の米と酵母を復活させた純米酒造りに挑戦しています。
酒米は、かつて「山田錦」と並ぶ酒造適性を持ちながら、栽培の難しさから昭和初期に消えてしまった「広島錦」を復活させ、原料米として全量を自社精米で使用しています。
酵母は、良質な酒造りのために日本醸造協会から全国の酒蔵に頒布された「きょうかい酵母」のひとつで、大正時代に賀茂鶴の蔵から分離された「賀茂鶴酵母(協会 5号酵母)」です。同社に残っていた株から新たに選別し直し、採用しています。
「広島錦」には純米大吟醸と純米酒の2種があり、酒販店向けに純米大吟醸、料飲店向けに純米酒を展開。2019年フランスで行われた「Kura Master日本酒コンクール」では、「広島錦」純米大吟醸が純米大吟醸部門で金賞を受賞しています。
※Kura Master(https://kuramaster.com/ja/)
2017年から開催されているフランスで行うフランス人のための日本酒コンクール
日本三大銘醸地、西条を代表する蔵元として
日本国内では、酒都・西条(東広島市)を代表する蔵元として知られる賀茂鶴ですが、海外に向けても20年前から日本酒の出荷を始めています。
6年前からアメリカに、4年前からフランスに向けて、両国への出荷を開始。
特にフランスでは、日本酒展示試飲会「サロンドサケ」への出展、ル・コルドン・ブルー・パリ校で開催された広島県産日本酒セミナー、パリでの広島フェアなどに参加してきました。
フランスでは日本酒の味だけではなく、その歴史や原料である米にも関心が寄せられます。
その点、日本三大銘醸地である西条は、語るべきものが多くあります。
たとえば、温暖なイメージがある広島でも、寒冷な地にある西条は酒造りに適した土地柄であるという点。
賀茂山系の伏流水は適度なミネラルを含む軟水で、それを仕込み水に使うと飲み口がやわらかで甘みのある日本酒ができる点。
これらは、賀茂鶴だけではなく、西条の蔵元にも共通する環境でもあります。
そして日本酒の原材料となる米には、賀茂鶴独自のこだわりも。
西条より標高の高い広島県北部で、稲作に最適な「埴壌土」と1日の寒暖の差が大きい県北の環境に育まれた酒造好適米を使用。広島県産の原料米をすべて自社で精米し、精米用の蔵も完備しています。日本酒の原料となる米に責任を持つことは、同社の姿勢の表れといえます。
さらに、西条の日本酒の歴史や背景を伝えていくとともに、食事と一緒に味わうことで、日本酒の魅力がさらに増すという点も、今後、フランスをはじめとする海外に向けて賀茂鶴が伝えていきたいことでもあります。
先述した「すきやばし次郎」のように、日本ばかりか世界的に評価されている名店で、賀茂鶴の日本酒は使われています。広島市中区の「日本料理 喜多丘」もそのひとつ。
両店とも世界のレストランランキング「ミシュランガイド」と「ラ・リスト」に掲載されている名店です。そのいずれもが、料理を引き立てる日本酒として賀茂鶴を選び、信頼を寄せています。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで、和食の認知とともに日本酒への興味関心が世界的に広がりつつあります。日本酒と食とのマッチングの提案や啓蒙は、今後の海外展開において重要な要素といえます。
賀茂鶴を知ってもらうことは、西条を知ってもらうこと
賀茂鶴では、賀茂鶴で最初にできた蔵である一号蔵を2019年から見学所と直売所としてリニューアルしています。
一号蔵は登録有形文化財(建造物)に指定された明治時代初期の建造物。大きな甑(こしき)やタンク、実際に宣伝用の看板として使われていた賀茂鶴の文字などを展示しています(現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、無料試飲とプレミアムなお酒の有料試飲は休止)。
海外からの観光客が団体で訪れても受け入れるだけのキャパシティがあるのは、賀茂鶴ならではといえますが、同社の狙いはそれだけではありません。
賀茂鶴を知ってもらうことは、西条を知ってもらうことにつながる、という思いがそこにはあります。
賀茂鶴を一歩出れば、酒蔵通りと呼ばれる通りには7つの酒蔵が立ち並んでいます。
蔵の白壁やなまこ壁、赤レンガの煙突がそびえる景観は、ひとつの地域に酒蔵が密集している西条の特長であり、魅力のひとつです。
例年10月に開催される「酒祭り」では20万人もの人で賑わい、酒蔵通り周辺は日本酒を楽しむ人々でごった返します。蔵から蔵へ移動し、その蔵の日本酒や催しを楽しめるのは、複数の蔵元が集まっているからこそ。
酒造りの歴史と文化の息づく町並みを伝えることが、西条の日本酒を伝え、日本酒の理解を広げる機会になる。そんな思いが賀茂鶴の一号蔵には込められているのです。
賀茂鶴酒造株式会社
1918年(大正7年) 法人設立
東広島市西条本町4番31号
https://www.kamotsuru.jp/
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