日本酒の味わい方や楽しみ方を広げてくれるアイテムが、酒器です。視覚的な美しさや食卓の雰囲気を演出するツールでもあります。
日本酒の酒器の素材は、ガラスや磁器、陶器、木、錫(すず)などの金属と、いろいろあります。
素材により唇に当たる感触も違います。例えば、漆は感触が柔らかく温かいので、寒い冬には特にうれしい素材です。切子などのガラス素材は、見た目も涼やかで、夏に冷酒を飲むときに最適です。ぽってりと厚みのある陶器は燗酒に、薄手で透明感のある有田焼のような磁器は繊細に味わいたいお酒に、それぞれ向きます。
飲むための酒器の種類
酒器 | 特徴 |
枡(ます) | 枡は、日本酒を計量するための道具として使われていましたが、昭和30年代以降から酒器として使われ始めました。香りを日本酒とともに楽しむ杉の枡は人気です。枡の中にグラスを入れ、日本酒を溢れるまで注ぐスタイルを「もっきり」と言います。 |
蛇の目利き猪口 (じゃのめききちょこ) |
底に青い二重丸の模様(蛇の目)が入った酒器。主に日本酒の色を見極める道具として、杜氏や蔵人が使います。1911(明治44)年に国立醸造試験場が開催した「第1回全国新酒鑑評会」の審査員用として開発されたものと言われます。 |
猪口(ちょこ) | 日本酒を飲むための円筒形の酒器の総称。もともと料理を盛り付けるための小さな器でした。燗酒を飲むときによく使われてきました。 |
ぐい呑み(ぐいのみ) | 猪口よりも大きな酒器全般を指します。 |
切子(きりこ) | 表面に装飾を施したカットグラスで、東京都の江戸切子、鹿児島県の薩摩切子が有名。とても高価な酒器でもあります。 |
ワイングラス | 大型のボルドー型は濃醇な味わいを、湾曲性が高いブルゴーニュ型は香気を引き出してくれることから、日本酒用として使われることも増えてきました。 |
フルートグラス | 口径が小さく炭酸ガスが抜けにくいため、スパークリングワインに使われますが、発泡性のある活性清酒にも用いられます。 |
注ぐための酒器の種類
酒器 | 特徴 |
徳利(とっくり) 銚子(ちょうし) |
日本酒が入った一升瓶や四合瓶では、日本酒を飲むときに酒器に注ぎにくいため、注ぐための酒器として徳利や銚子があります。 もともと銚子は神事で使われる高級酒器、徳利は醤油や酢を保存するための壺を指していました。江戸時代以降、庶民が日本酒を飲むようになり、注ぎ口が長い銚子より、徳利の方が湯煎しやすく使い勝手が良いことから、酒器として普及していきました。 錫製の徳利は、熱伝導率が高く、お湯に30~40秒浸けるだけで適温で燗酒にでき、お酒の味もまろやかに仕上がるため、人気です。 |
片口(かたくち) | 表面積が広く、空気との接触面が広いワインのデキャンタのような酒器です。お酒が空気に触れることで味をまろやかに変化させる半面、香りが飛びやすく酸化を早める形状のため、使い方に注意を要します。 |
酒器と味覚の切り離せない関係性
日本酒を注ぎ入れる酒器の材質、形状、大きさ、厚みなどの違いにより、お酒の香りや風味の感じ方が変わります。
例えば、口径が小さく、お椀型で縁が比較的厚めの酒器で飲むお酒は、甘味を感じます。舌の先端が最も甘味を感じるのですが、このような形の酒器は少量のお酒が舌先にやわらかく流れてくるため、お酒の甘味を感じやすくなるわけです。
同じお椀型の酒器でも、大きな口径で縁が薄い酒器でお酒を飲むと、舌の広いところにお酒がいきわたり、まとまりのある味わいになります。
円筒型の酒器で飲むと、舌の真ん中あたりにお酒が流れ込むので、酸味を感じる傾向があります。
このように酒器の形は味覚に影響を与えるので、飲む日本酒の特性に合わせて酒器を選ぶようにするとよいでしょう。
日本酒別 酒器選びのポイント
日本酒のタイプ | 酒器の形状 | 理由 |
香りを楽しむ大吟醸や吟醸酒 (薫酒タイプ) |
上に広がったラッパ型や円筒形に近い形状の酒器、白ワイングラスなど | お酒の華やかな香りを楽しむためには、香りをとどめてくれる形の酒器を選ぶとよいです。 |
お酒そのものの味わいや風味を楽しむ純米酒 (爽酒タイプ) |
小さめの酒器、薄手のグラス、フルートグラスなど | 冷酒の場合、酒器を手にした瞬間から体温が急激に伝わらないような酒器が好ましいです。 |
濃厚でコクのある生酛や山廃 (醇酒タイプ) |
大き目で口径に厚みがある陶器や磁器製の酒器、備前焼のような焼き締めの酒器、ボルドー型のワイングラスなど | 濃厚な香りがこもり過ぎない、比較的口の広い形状が最適です。 |
熟成された古酒や貴醸酒など (熟酒タイプ) |
ブランデーグラス、風船型の酒器、ショットグラスなど | 口がすぼまっに湾曲性のある形の酒器なので、濃い色合いや複雑な香りを楽しめます。 |
日本酒ほどさまざまな素材と形の酒器があるお酒は世界的にも希少です。ワインもビールも通常グラスで飲みますが、日本酒は陶器に磁器、木や錫、漆器と実に多彩。
そして、酒器によって、日本酒の香りの強さや弱さ、味の甘さや辛さ、飲む温度まで変わります。同じ種類の日本酒も酒器を変えることで、味わいの違いを知ることができるのも魅力の一つです。
お酒同様、自分好みの酒器を集め、日本酒と組み合わせることで、日本酒を今まで以上に楽しむことができるでしょう。
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