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発酵・酸味・香りに優れたリンゴ酵母と 高温糖化酒母法を独自開発し、花開かせた蔵元 – 中尾醸造

広島の酒

[投稿日]2021年03月11日 / [最終更新日]2021/03/22

中尾醸造の日本酒を語るうえで、欠かすことができないのがリンゴ酵母と高温糖化酒母法です。
リンゴ酵母とは、その名の通りリンゴの皮から採取した酵母です。
中尾醸造三代目となる中尾清磨が全国を訪ね歩き、2000以上もの酵母を収集した中から発酵力、酸味、香りの3点において優れた酵母菌として1940(昭和15)年に発見し、独自に酵母開発しました。
酵母は日本酒の味と香りに大きな影響を及ぼします。
リンゴ酵母は、発酵力、酸味、香りの3点において優れた酵母菌で、リンゴ酵母で醸すと、フルーティーな香りできれいな味の日本酒になるのが特長です。
しかし、発見してすぐにはリンゴ酵母を実際の酒造りに生かすことはできませんでした。
なぜなら、リンゴ酵母を添加しても発酵の途中で、蔵にもともと住み着いている蔵付き酵母が強く働き、お酒を搾る頃にはリンゴ酵母は消えてしまっていたからです。
蒸米と麹と水を混ぜ合わせたもろみに、発酵のための酵母を育てておく工程を酒母と言います。
酒母にリンゴ酵母が純粋に育てば、後から多少他の酵母が入っても影響を受けることはありません。ところが、酒母の段階で、麹や道具に付着して力の強い蔵付酵母が入ってくると、添加したリンゴ酵母は負けてしまい、生き残ることができないのです。
この課題を解決するために、清磨が開発した醸造法が「高温糖化酒母法」です。
従来の酒母は20度くらいの温度で仕込んでいましたが、高温糖化酒母法では、蒸米・麹・水を混ぜ合わせるもろみの工程で、55度を8時間保ちます。
この「55度で8時間」という長時間の高温環境下で酒母全体を無菌状態にすることができ、蔵付き酵母がいない状態を作り出します。また、熱に弱い麹の酵素を壊すことなく効率的に糖化が完了します。そして8時間経過後に20度程度まで冷却してリンゴ酵母を添加し、約10日間培養することで、リンゴ酵母100%の純粋な酒母が完成するのです。
1947(昭和22)年、リンゴ酵母の発見から7年を経て、高温糖化酒母法が開発されました。
翌1948(昭和23)年にはリンゴ酵母を使い、高温糖化酒母法で仕込んだ大吟醸が同年に開催された全国鑑評会で1位を受賞。さらに、その翌年1949(昭和24)年からは皇室新年御用酒として3年間連続して献上する栄誉を受けます。
また、この高温糖化酒母は、日本酒造業界に貢献したとして、1955(昭和30)年に日本醸友会より第1回技術功労賞を受賞しました。
時代に先んじた酒として長く市販されずにいましたが、1974(昭和49)年に満を持して大吟醸「幻(まぼろし)」として復活しました。全国鑑評会で1位を受賞してから26年後のことです。洗米から最後の搾りに至るまで手作業で丁寧に造られる「幻」は、現在も中尾醸造の代表銘柄として人気を博しています。
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高温糖化酒母法は、酒母工程で酵母をより純粋培養できる理想的な酒造りの手法として、今に受け継がれ、中尾醸造の日本酒は全量、高温糖化酛仕込です。

機械化・合理化をいとわず、手作業にしかできない工程に全力を尽くす

中尾醸造には「幻」の他にもう一つ、看板となる銘柄として「誠鏡(せいきょう)」があります。盃に注いだお酒の表情を鏡に例え、蔵人の心を映し出してほしい、という思いを込めたこの銘柄は、中尾醸造の社是にもなっています。
酒米に山田錦を使い、きれいな味わいと香りが特長で、単体でも楽しめる「幻」に対し、米や麹の味わいを大切に仕込んだ「誠鏡」は、おとなしい酒質ながら米のうま味がしっかりと感じられます。
初めて「誠鏡」を飲む方にお勧めしたいのが「誠鏡 純米たけはら」です。麹のうま味を十分にひき出した穏やかな口当たりで、時間をかけて熟成されたまろやかな味わいです。冷酒から熱燗まで幅広く楽しむことができる、バランスのとれた純米酒といえます。
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純米酒には蔵の個性が出ます。その個性をつかさどる要素の一つが米です。
中尾醸造では、「備前雄町」を広島県内2か所の契約農家で栽培しています。竹原・仁賀地区には契約農家が5軒あり、地元産雄町米での酒造りを実践しています。
雄町は、岡山生まれで日本に現存する唯一の原種です。大粒で心白が大きく柔らかい性質で、日本酒にすると深みのある旨さを醸しだします。
「誠鏡」銘柄の雄町シリーズは純米酒と純米吟醸酒の二本立てです。
純米酒は穏やかな香りで、雄町米の深い旨味を全面に押し出した柔らかな味わいです。
純米吟醸酒は雄町米を55%まで精米し、米麹造りに手間と時間を費やし、丁寧に醸しています。
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中尾醸造では精米工場が別にあり、酒米を自社精米しています。精米機の他にも、冷蔵倉庫があり、貯蔵、検品、瓶詰なども機械化。まさに酒造工場という趣ですが、全てを機械化しているわけではありません。日本酒の味を左右する手作業の部分は創業時から変わらず、人の手をかけて丁寧に行われています。自動化できる工程は積極的に機械に任せ、その余力を人にしかできない手作業の工程に注いでいます。こうしたメリハリのある酒造りが、確かな品質として反映されているのです。
こうして造られる中尾醸造の日本酒は、特定名称酒比率が98%を占め、そのうち吟醸・純米酒は92%。全量が高温糖化酛仕込で、無濾過(むろか)です。
※搾った日本酒は、通常、濁りや雑味を除くため濾過しますが、この作業を行わないこと無濾過と言います。
中尾醸造の創業は1871(明治4)年。竹原市街地を貫流し、瀬戸内海に注ぐ賀茂川の伏流水と広島の良質米を使った地酒づくりを目指し「廣島屋」の屋号で蔵を興しました。
創業時は「たけはら町並み保存地区」に蔵元がありましたが、昭和初期に現在の地に移転。
仕込み水に使っている井水(せいすい)は、発酵に適した中硬水です。「誠鏡」の名の通り、誠心誠意の精神を今に受け継ぎ、丹精込めた酒づくりにいそしんでいます。

海外での実績も着々と

国内で売れないものは海外でも通用しない──と、これまで国内での販売に注力してきましたが、10年ほど前からフランスへのアプローチを続けています。パリを中心に日本食レストランが徐々に増え、純米酒の人気も高まっていることから、伸びしろが見込めるからです。
中尾醸造にとっては、自慢のリンゴ酵母とそれを高純度に育成する高温糖化酒母法を海外に問う好機でもあります。
それを裏付けるように、同蔵の最高峰ブランドである「純米大吟醸原酒 まぼろし黒箱」は、2007(平成19)年に「インターナショナルワインチャレンジ(IWC)」で金メダルを受賞。日本国外で最も歴史の長い日本酒の品評会「全米日本酒歓評会」大吟醸酒B部門(精米50%以下)で2010(平成22)年、2015(平成27)年、2018(平成30)年に金賞に輝いています。
同品評会では「誠鏡 純米たけはら」も2013(平成25)年、2015(平成27)年に純米酒の部で金賞を受賞。中尾醸造の日本酒は海外でも高い評価を得ています。
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中尾醸造株式会社
1871(明治4)年 創業
竹原市中央五丁目9番14号
http://www.maboroshi.co.jp/

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