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第10回ひろしまシェフ・コンクール審査結果

広島食道

[投稿日]2024年03月20日 / [最終更新日]2024/08/07

 

優秀な若手料理人の発掘と広島の食の魅力の向上を図るため、若手料理人を対象に開かれている「ひろしま料理人コンクール」。2014年から西洋料理の部門「ひろしまシェフ・コンクール」が始まり、翌2015年から和食部門の「ひろしま和食料理人コンクール」がスタートした。

両コンクール共に、成績優秀者には国内外の料理店などでの修業費用を支援。これまでにのべ50名以上の成績優秀者を輩出してきた。修業を経た者の中には、県内ホテルの料理長として活躍したり、オーナーシェフになって独立新規開店するなどの成功者もおり、大きな成果をあげている。

今年もまた、夢への切符をつかみ取りたいと各地から若手料理人が集結。「広島酔心調理製菓専門学校」を舞台に、「第10回ひろしまシェフ・コンクール」が執り行われた。

 

出場者(順不同、敬称略)

リーガロイヤルホテル広島 迫谷心

・瀬戸内醸造所 寿浦圭市

・ホテルグランヴィア広島 武内浩

・リーガロイヤルホテル広島 濱野寛大

・ヒルトンホテル広島 檜垣貴宏

・グリシーヌ 藤井祥吾

・MORETHAN HIROSHIMA 山谷耕太

 

実技審査員(順不同、敬称略)

・日本ホテル 総括名誉総料理長 中村勝宏

・オフィスオオサワ 大沢晴美

・レストラン タテルヨシノ 吉野建

・ル・トリスケル 勇崎元浩

・ラ・セッテ 北村英紀

・広島県飲食業生活衛生同業組合もみじ支部支部長 山口数広

・県知事 湯﨑英彦

 

この日の課題は県産食材(真鯛とじゃがいも)を使った西洋料理で、前菜とメインの2品。調理用具の使い方や時間配分などについての簡単な諸注意を含めた開会式を経て、早速実技審査が開始された。

評価の対象となるのは、作業態度や調理状況、課題対応など。手順の適切さや仕事の段取り、作業中の片付けといった部分も厳しくチェックされるため、一瞬たりとも気が抜けない。審査員の鋭い視線が飛び交う中、各々の選手が調理台で必死に作業をこなす。食材を扱う手先は、慎重かつ丁寧だ。

ある審査員は、「まずは身なりや姿勢を意識した、きれいな仕事を見たい。課題の真鯛とじゃがいもは相性の良い食材。どちらも淡白でクセのない素材なので、別の味を足して何か新しい料理を作り出すのか、それとも素材そのものを活かすのか。そのあたりが非常に楽しみ」と期待を寄せた。また別の審査員は、「時間内に間に合うように気を付けてほしい。そして何よりもけがをせず、安全に。全力を出し切って」と温かなエールを送ってくれた。

 

約140分間の調理時間を経て、まずは課題1の前菜が審査室へと運ばれ、さらに30分後には課題2のメインが出そろった。ここから試食審査へと移る。

選手たちが創意工夫を凝らした料理は以下の通り。

 

迫谷心(リーガロイヤルホテル広島)

穴子・わけぎ・生ハムのプレッセ ぬたをオマージュして

海苔を纏った真鯛のルーレ 牡蠣とじゃがいものタルト仕立て 広島県産よりえびのソースで

寿浦圭市(瀬戸内醸造所)

牡蠣のトマトファルシ 海の香りをイメージして

じゃがいもを纏った真鯛のフリット マルテーズソース

武内浩(ホテルグランヴィア広島)

広島の食材を使用した前菜盛り合わせ

瀬戸内海の島々に見立てた鯛料理 2種

濱野寛大(リーガロイヤルホテル広島)

豆とキヌアのサラダ レモンヴィネグレット

鯛のパネ 海苔とポテトのルーロ ヴァンブランソース

檜垣貴宏(ヒルトンホテル広島)

赤鶏とくれぇ海老のガランティーヌ フルーツのソース

真鯛のコンフィ 浅利のリゾット マリニエールソース

藤井祥吾(グリシーヌ)

東広島こい地鶏のテリーヌ

真鯛とさくら

山谷耕太(MORETHAN HIROSHIMA)

グリーンアスパラガスのポシェのソースオランデーズ

真鯛のソテー じゃがいもの鱗焼き

いずれ劣らぬ華やかな料理を、審査員たちが眺め、香りを嗅ぎ、切り分けてからゆっくりと口へ運ぶ。何かを確かめるように咀嚼する様子は、若い料理人たちの才能のかけらを探り出しているようにも見えた。

審査員たちからは、「どれもそれなりに良くできている。今年は中華料理で勝負した人もおり、興味深かった。ただ、これらの料理を実際にお客さまに出せるのか、その視点が欠落しているように思う。味だけが良くても、見た目だけが良くてもダメ。トータルのバランスをもう少し意識してほしかった」「レモンやアスパラ、地酒など、広島の食材をふんだんに使っている点は良かった。私たちが若い頃にはなかった最新の調理器具を使ったような、新しい調理法が見られたのも面白かった」と、多様な意見が寄せられた。

 

そして審査は、選手たちが料理に込めた思いや調理ポイントをPRするプレゼンへ。広島や日本を代表する先達を前にして、緊張しつつも、熱意あふれるままにスピーチする様子が見て取れた。

ある選手は、自身が働くレストラン周囲の景色から料理のインスピレーションを得たことを、また別の選手は、地元のブランド食材を主役にして春をイメージした料理を組み立てたことを一所懸命に語った。

見守る審査員の目には温かさが宿り、皆が一様に「今日はお疲れさまでした」とねぎらいの言葉を口にした。

すべての審査を終え、最後はいよいよ結果発表。表彰式が開かれ、審査員たちが講評を行った。

 

中村勝宏氏

「個人的に、誰か一人がずば抜けているということではなく、同じくらいの実力だと感じた。前菜とメインは、レストランの場合同じコースで食べると考えられる。その視点が反映されておらず、前菜とメインのメリハリがなかったように思う。料理は基本とされるクラシックがあって、それが進化して個性が出てくる。今回はオーソドックスなものが多かったので今後に期待したい。また、コンクールである以上コックコートや帽子の着用は必須。心構えを含めて調理に臨んでほしい」

 

吉野建氏

「昨年も一昨年も審査に携わっているが、料理は悪くなかった。仕事ぶりも非常に良いと感じた。しかし、中村さんも言われた通り、コックコートを着るとか帽子をかぶるといった常識的なことができていなくて淋しく思う。料理人は、自身の技量を磨いて世界へと羽ばたける職業。『自分の人生をこの二皿で変える』というような努力を、今後も続けていってもらいたい」

 

大沢晴美氏

「このコンクールに長く関わり、成績優秀者を研修先へと紹介してきた。この10年、料理は『インスタ映え』といった言葉に代表されるような、盛り付け重視のものに変化してきている。私は料理を注文する際、どんな火入れか、どんなソースかなどに注目する。とくにソースは非常に重要で、研修先のフェランディ校のシェフも『日本の料理人はきれいな仕事をするけどソースが弱い』とよく口にしている。美しい盛り付けも良いけれど、ぜひ自分のソースを見直してほしい」

 

厳しくも温かいアドバイスを受け、7名の中から選ばれた入賞者は以下の3名。受賞の感想や今後の意気込みを聞いた。

 

 

1位 迫谷心(リーガロイヤルホテル広島)

「3年前にも挑戦し、その時は3位に終わった。負けたまま終わるのは嫌だと思って臨んだので、優勝することができて嬉しい。自分は幼い頃、魚を釣って野山を駆け回るような生活をしていた。その原点が料理に活かされていると思う。これからは、美味しいだけではなく、食べて健康になるような、より良い体験ができる料理を提供していきたい。そして普段の仕事では一から料理をすることはないけれど、コンクールでは100%自分で調理できる。料理人として、とても貴重な成長の場だと感じる」

 

2位 檜垣貴宏(ヒルトンホテル広島)

「ただただ悔しい。3回目の挑戦で、前回も2位の受賞だった。優勝を勝ち取れるまで、何回でも挑戦し続けたい。審査員の方から『味は良いので、もう少しシンプルに』と貴重なアドバイスをいただいたので、今後も今まで通り頑張っていきたい」

 

3位 寿浦圭市(瀬戸内醸造所)

「以前職場にいた先輩が優勝を収めていて、自分もチャレンジしようと思った。3位に終わったのは悔しい。広島の食材を使って1年中パンチのある料理を出していきたいと考えているし、次こそは必ず優勝したい」

 

最後に、このコンクールの生みの親でもあり、第10回という節目にあたって審査員を務めた湯﨑英彦知事の声を紹介する。

「今回審査員を務めてみて、新しい発見もあった。このコンクールは10回を数えるが、参加者が固定化してきているのが課題。個人で店を開いているような料理人もたくさんいると思うので、もっと幅広く参加者を募っていきたい。そして、地元で料理人が育っていくのはまさに地域の財産。同時に食べ手も磨かれていくといいなと考えている。共に広島を盛り上げて『広島はおいしい!』という機運を高めていきたい」

 

海も山も川もあり、食材の宝庫として知られる広島。豊富な素材を自在に活かしていく料理人たちと、その美味しさを堪能し、広く発信していく食べ手の存在があれば、この土地はもっともっと豊かになるだろう。

自身の技を磨き、夢を叶えるきっかけになると同時に、広島の食文化を支える一員となりうる「ひろしま料理人コンクール」。次回もまた、数多くの挑戦者が現れることを期待している。

 

 

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